samedi, septembre 30, 2006

ジェダイ誕生物語 ~クライマックスは突然に~

都内僻地の夜の帳を破るように叫び続けられる"イクラちゃん発声呼吸法"。そしてクライマックスは突然に訪れた。

午前3時前後になって、陣痛はピークに達し、というか、「息まないで」と言われても息まずにはいられない状態に。もう裂けようがなにしようが関係ないと思い始め(というか、息まねば死んでしまう)、 それでも「ん ぎゃ~っ」とか精一杯にこらえながら、断末魔の叫びを続ける。陣痛の間隔は、既にもう間隔とは言わなくて、絶えずの状態。それでも頭の中では「まだまだかかる」と思っているので、ギリギリの限界までナースコールを押すのは止めようとひとり葛藤。でも、なんだか腰の下からお尻のあたりにかけて、違和感を感じ、「とりあえず様子だけ見てもらおう」と遂に二度目のナースコールを手にする。

というか、明らかにお尻のあたりに人間の頭のような物体の存在を感じる。そしてそれは、たまらず息む度に確実に一段二段と下に下がってくる感じ。どう考えても便ではない。

「す、すみません……、ちょっと来てもらっていいですか?」
「はい、いいですよ」

助産婦が部屋に入ってきた気配。

「あぁ、コレ、大便が出てるねぇ(東北訛りで)……えっ、あっ、ちょっと待って! コレ赤ちゃんもう出ちゃう、大変!!」

大慌てでナースステーションへもうひとり助産婦を呼びに行く、"夜の助産婦"。

「2時間くらい前に見たときは、ホントに子宮口まだ全然開いてなかったのに、もう全開!!」

しきりに弁明し、パニックに陥り、動転して便の処理にかかろうとする、"夜の助産婦"に対し、「そんなのあとでいいわよ! とにかく先生に連絡して、分娩室に連れてかなくちゃ!!」と別の助産婦が叱責。

そして依然動揺が続いているのか、車椅子を持ってくる"夜の助産婦"に対し、「ム、ムリです……」と、赤ちゃんが出掛かった状態の"半妊婦"は直訴する。

大慌てで担架が運び込まれ、台車に乗って分娩室へ。

エレベーターに乗り込んだとき、「あぁもうすぐ終わりなんだ……」と、階数を表示する電光掲示板を見ながら、ほっと安堵する。そのときはもう、安心感で痛みとかほとんど感じていなかった。それに、そばに付いててくれる助産婦のただ言うとおりにしていればいい、人任せにできる安心感もあった。

分娩室に運ばれると、すぐさま分娩台へ担架から転がるように移動。足台に両足を乗せ、診察のときと同じ開脚姿勢になり、あとは胎児の心音を確認するモニターが手際よく取り付けられる間に主治医がやってくる。

「ハイ、息止めててね~……、ハッハッハッって息を吐いてくださ~い」

「おぎゃ~」。

「男の子ですよ~!」

息を三回吐いただけで、ツルンと拍子抜けするくらい簡単に出てきてしまったジェダイを高く上げて見せてくれる先生。その瞬間をしかと目に収めようと、新生児大の排便を終えた元妊婦は分娩台で腰を軽く浮かせて、我が子を覗き込む。


2006年8月31日午前3時32分、ジェダイ誕生。