samedi, septembre 30, 2006

ジェダイ誕生物語~それは突然に~

その瞬間は8月30日の朝に訪れた。

5時半ごろ目が覚め、トイレへ行こうと立ち上がろうとしたとき、軽い尿漏れのような感覚があった。でも妊娠後期は膀胱が圧迫され、そういった症状があったりもするので、寝ぼけ眼でそのままトイレへ行った。そして用を足し、立ち上がったその瞬間、チョロチョロと水のようなものが流れてきた。

明らかに尿とは違うのは、身体に力を入れてもそれを自分で止めることができない。それが"破水"であるということは、事前に頭に仕入れていた。その瞬間、「まさか……」と、破水を信じたくない自分。でも一歩前へ進むごとに、液体は股の間から流れてくる。そして青臭い匂い。これは紛れもなく"破水"であると認識した。

その瞬間、頭を駆け巡ったのは「もう妊婦生活が終わってしまうのか……」という残念な気持ち。まるで学生生活が終わる前のような。いや、長かった夏休みが終わるような。

破水をすれば、少なくとも3日以内には出産になる。お腹の羊水がなくなってしまえば、胎児は生きられなくなるので、たとえ陣痛がこなくても、胎児を生まれさせなければならない。

気を落ち着けて、まずは病院に連絡をしようとするのだが、ケータイにメモリーしておいた、病院の電話番号がなかなか押せず、私なりに多少動揺していた。

電話に出たのは、主治医ではなく男性の医師。多分、いつも診てもらっている女医の先生の旦那さん。

破水後はどれぐらいの時間を急ぐのかという知識が事前になかったので、一刻を争うものではないかと心配したけれど、「8:30にご入院の用意をもって病院へ来てください」と落ち着いた声で言われ、瞬時に「あ、そんなに緊急ってわけではないのだな」と認識。「これから病院へ行くまではどうしていればいいのですか?」ということを割と冷静に訊ね、「安静にして羊水がなるべく流れないようにしてください」とのアドバイスを受ける。さらに「今後の展開については?」という質問に対しては「通常は24時間以内に陣痛が始まります」とのことだった。

というわけで、とりあえず6時をまわった時点で実家に連絡を入れ、病院での診察後に再度連絡をするので、いつでも上京できるように待機しておいてほしい旨を伝える。

入院の仕度は、前週の時点でとりあえず揃えたものだけ、まとめて非常袋のようにいつでも持ち出せるように用意はしてあった。だけど、前開きパジャマ1着(1着は友達からいただいたものが用意してあった)と、授乳用ブラジャーだけは結局間に合わなかった。

それからタクシーの手配をするが、控えてあった一件目のタクシー会社は営業時間外らしく、つながらなかった。それからネットで24時間受付の個人タクシー協業組合に電話してみるが、「無線で呼び出してみたんですけれど、お車を見つけることができませんでした」と言われる。事前に「あの、妊婦で急に病院に行かなければならなくなって」と言っていた後だったので、タクシー会社にしてみれば、妊婦だろうがなんだろうが、ただの顧客のひとり。当たり前だけど、救急車ではないんだなって、なんとなくむなしさを感じた。3件目は、うちから目と鼻の先にあるタクシー会社。もとは運送会社なので、見た感じ車の台数も少なそうだし……という理由で、リストの3番目にしていたのだけれど、ここがいちばん親切な対応だった。7:00すぎに電話したらつながって、「運転手が8時からの出社なんで、すぐにはお車出せないんですよ」と言われたけれど、うちから病院までは車で10分もあればたどり着くので「病院へは8:30に着くのでその10分前に迎えに来てもらえば構いませんので」というと、快く応対してくれ、自宅前に到着したらケータイに電話で知らせてくれるように計らってくれた。

それから1時間程度。時にmixiに書き込みをしたりしながら、短いようで長い時間を過ごす。

不意に「今から入院ってことになると、絶対朝ごはんは出ない!」と思い、台所にあった残り物のごはんでおにぎりを握り、ついでにお茶を用意してペットボトルに詰める。冷蔵庫を開けてみると、その日が賞味期限のステーキが入っていたので、焼いて食べてスタミナつけてから病院へ行こうかと思ったけれど、おにぎりなら横になりながらでもつくれるけれど、肉を焼くのは立ちながらでないとできないので、なくなく諦める。

それから「そういや、昨夜洗濯機まわしたまま干さずに寝ちゃった」ってことを思い出し、洗濯物を干す。

とはいえ、羊水は立っていればどんどん出てくる。これらの行為をいかに動きを最小限に効率よくやるかが秘訣だ。

妊娠中、パソコンはソファに横になりながらでもタイプできるようにマスターした。これが最後まで役に立って、mixi上に書き込みを続けながら、破水生活を送ることができた。

とはいえ、動くたびに羊水は漏れ続け、家の中はもう水溜りだらけだ。おまけに羊水は臭い。たとえて言うなら、草の汁のような青臭いにおい。

妊娠中は、万が一突然の破水に備えて、外出の際はいつでも生理用ナプキンを持ち歩いていたけれど、そんな程度じゃ流れ出る羊水の量にはとても追いつかない。

前日に産院に見舞ったNさんに「破水しちゃいましたー」とメールを打つと、「ナプキンは二枚重ねにしてね」とアドバイスを受け、これが結構役に立った。

mixiでの自宅からの最後の書き込みを追え、PCの電源を落とし、PCを母親に持ってきてもらえるようにバッグに整理して、着替えをして腰にバスタオルを巻いた状態で、迎えに来たタクシーへ乗り込む。

8月30日8時20分、いざ出陣。